福岡貿易会オーストラリア・ニュージーランド経済ミッション報告

経済成長と人口増加が著しいうえに大都市の住みやすさの面でも評価の高いオーストラリア、そして近年新技術のスタートアップが盛んで世界で最もビジネスしやすい国と言われるニュージーランド。福岡貿易会では創立60周年記念事業として2018年11月13日から23日の日程で、土屋団長以下総勢24名で両国に経済ミッションを派遣した。その様子をお伝えしたい。

〇オーストラリア・シドニー

11月13日夜、福岡から台北経由で豪州に向け出発。翌14日昼シドニー到着後、ダーリングハーバーのコンベンションゾーンと親水空間の整備状況を視察し、夕方から現地日系企業4社との意見交換会に臨んだ。農業分野、物流、都市開発、住宅設備関連の各分野の現地事情を伺ったが、各社共に豪州市場の成長ぶりに魅力を感じ、事業拡大のチャンスとみている。その後、湾岸エリアのバランガルー地区を視察した。ここではシドニー最大の再開発事業(22ha)が進行中で近未来デザインのオフィスビルや商業施設が建ち並び、すでに注目スポットになっている。地下鉄整備も含め再開発事業完了の2024年には都市の形が大きく変わることだろう。

開発が進むシドニー・バランガルー地区

開発が進むシドニー・バランガルー地区

翌日は朝からジェトロ・シドニー事務所を訪問し、中里所長より豪州経済情勢に関するブリーフィングを受けた。豪州経済は1991年から27年連続で成長中。人口は3年ごとに100万円増加、うち移民が6割。5大都市に人口が集中して都市問題が発生し移民を少し絞る動きがあるが、長期的に人口増加が見込まれる成長市場である。物価は高いが最低時給も19豪ドル(約1570円)と高い。他民族国家で英語が十分に話せなくても寛容な社会に高い給料。豪州に移民が集まる状況も頷ける。

その後、会員企業㈱プレナスの現地法人プレナスAusTを訪問し、ディレクターの岡氏に豪州での事業展開を伺った。現地では定食類が好調でありYAYOI(日本では「やよい軒)」の出店を加速する方針という。同社では精米したての米をわざわざ日本から輸入しているが、これは豪州で和の食文化を伝えるための使命と考えているとのこと。米食文化のない豪州に「持ち帰り弁当」を広めようという同社のチャレンジを応援したい。

午後からはシドニー中心部にあるビール工場跡地の再開発事業「セントラルパーク・プロジェクト」の現場を視察した。同プロジェクトは積水ハウス㈱とシンガポールの大手デベロッパーが2010年から取組み今年事業が完了した。中心に大きな公園を配置しそれを囲むように建物が置かれ、電気と温水の自家供給施設や汚水・雨水のリサイクルシステムの導入、歴史的建造物はリノベーションして活用するなど洗練されたデザインと環境配慮を両立させている。メインビルの「ワンセントラルパーク」は壁面緑化、空中庭園、巨大反射板などインパクトのある建物で、マンション、オフィス、商業施設等が入居。マンションの一室を特別に見せてもらったが価格は60㎡で1億円。ほぼ完売とのこと。管理費も周囲の2倍ながら住人の満足度は高いという。

現在シドニーの人口は約500万人。2050年には800万人に達するとの試算もある。市街地の活況な開発状況を見てそれも納得。

〇オーストラリア・メルボルン

世界一住みやすい都市との評判が高いメルボルン。英エコノミスト誌調査で2011年から7年連続首位を獲得し、人口も将来的にシドニーを抜いて豪州第一の都市になると言われている。そのメルボルン市街から東へ170kmの地点にあるラトローブバレーは褐炭の産地。褐炭とは若い石炭のことで自然発火しやすく輸送が困難のため、従来採掘地でしか利用されてこなかった。この褐炭から水素を取り出して日本へ運ぼうというのが日豪間国家プロジェクトの「褐炭水素サプライチェーン・プロジェクト」である。我々は11月16日朝からラトローブバレーを訪問した。

ラトローブバレー褐炭露天掘現場。4.5km☓2.5kmでダムのような大きさ

ラトローブバレー褐炭露天掘現場。4.5km☓2.5kmでダムのような大きさ

現地では川崎重工業㈱ほか日系4社と豪州の電力会社AGLエナジーがコンソーシアムを組み商用化実証を進めている。計画ではラトローブバレーのロイヤン発電所敷地内に水素製造プラントを設置し、ここからメルボルン南東のヘイスティングス港へ水素ガスを陸上輸送する。同港の液化貯留プラントでは水素ガスを-253℃の超低温で液化させ、専用運搬船に積み込み日本へ運ぼうというもの。東京オリンピック開催の2020年度に実現性を技術実証する予定で進められている。豪州政府では関連して、CO2を豪州東海岸沖合の地中に埋めるCCS(CO2回収貯留)プロジェクトを進めており、両プロジェクトを組み合わせることでCO2フリーの水素ができることになる。視察を通じて日豪両政府の本プロジェクトへの意気込みが伝わったとともに、水素社会の到来が間近に迫っていることを実感した。

午後からはメルボルンのスタートアップ支援に関する調査のため、支援拠点の一つであるGoods Shed Northを訪問。入居する支援機関や支援先企業に話を聞いた。

「The Actuator」は医療技術(MedTech)のスタートアップ育成支援を行う非営利組織でCEOのバズ・パーマー氏自身が医師。毎年最大40社に1社あたり最大20万豪ドルの投資と15ヶ月間の集中支援などを行っている。支援先の一つ、LENEXA MEDICAL社はスマートシートという医療用ベッドシーツを開発。豪州では入院患者に床ずれができると病院に罰金が科せられ、その治療でさらに4日入院、国全体で年間20億ドルもの損失となっている点に着目した。患者個人の体重や病状等をデータ入力して床ずれを予測するため目視不要となり看護師の労力削減にもつながっているという。医療現場での小さなアイデアの種をうまくビジネスに結びつけている様子が伺えた。

「Sprout X」は農業技術(AgTech)のスタートアップ育成機関。支援先の一つが豪州最大の昆虫タンパク質製造会社に成長。その商品である粉末コオロギのチップスを試食したところ普通に美味しかった。欧米では昆虫粉末製品開発が進んでいるらしく、日本でも当たり前に食べる時代が来るのかもしれない。このほか、フィンテック開発を支援する非営利組織「Stone & Chalk」、ビクトリア州政府のスタートアップ支援機関「LaunchVic」など各分野の支援機関が同居し、連携による相乗効果を狙っている。

Goods Shed Northは築100年を超える鉄道施設をリノベーションして蘇った施設

Goods Shed Northは築100年を超える鉄道施設をリノベーションして蘇った施設

当日夜は、在メルボルン日本国総領事館主催の交流会にお招きを頂いた。川田首席領事より現地総領事館の取組について話を伺ったほか、豪州三井物産CEOで元在福岡豪州総領事のウェンディ・ホルデルソン氏をはじめ現地企業数社が参加する中でビジネス交流を行った。

メルボルン滞在中は市内各所を見て回ったが、歴史的建造物に新しい建築物が融合した街並みは美しく、住んでみたいと思わせる街だった。少し足を延ばせば豪州有数のワイン産地であるヤラ・バレー、ペンギンパレードで有名なフィリップ島など観光資源としての見どころも多い。市内中心部ではトラムが碁盤の目のように走っていて、それが無料で乗り放題!という大胆な政策がとられている。これも世界一住みやすいと言われる由縁だろう。観光客にとってはうれしい限りだが運営費は住民の税金で賄われているわけで、一種の社会実験でもある。

メルボルン市内では無料トラムが碁盤の目のように走っている

メルボルン市内では無料トラムが碁盤の目のように走っている

ニュージーランド・オークランド

豪州メルボルンからNZオークランドへ移動。11月19日朝、ジェトロ・オークランドの奥所長にニュージーランド経済情勢に関するブリーフィングをお願いした。同国経済は安定成長を維持しており、先進国の割には農林水産業に依存、移民受入に積極的で人口増加が続き、対中・対アジア経済への依存が高まっていることなど豪州との共通事項が多い。CPTTP、ラグビーWC、東京オリンピック開催等で日本への関心が高まっているとのことであった。

その後、オークランド市のスタートアップ支援の拠点「Grid AKL」を訪問。現在3施設あり、それぞれコワーキングスペース、イベントスペースのほかラウンジやカフェなどを併設。あわせて約130社のベンチャー・中小企業が入居し、オークランド観光イベント経済開発局(ATEED)がトレーニング、メンタリングなどのビジネス・サポート・プログラムを提供している。入居企業のGustav Concept社ではシェアオフィスなど柔軟な作業環境で働く人向けのポータブルオフィスツール箱「Gustav」を製作。パソコンやペンの出し入れや作業がしやすいのが特徴で、アディダス社の上海拠点に販売が決まっているという。好きなところでどこでも仕事。働き方が変わる中で新たな発想が生まれてくるのだろう。

Grid AKLにて。ATEEDと入居企業より事業紹介

Grid AKLにて。ATEEDと入居企業より事業紹介

Grid AKLが立地する湾岸エリアの「Wynyard Quarter Innovation Precinct」には、IBM、MicrosoftなどIT関連大手が立地し、一体的にイノベーション地区を形成している。オークランドをアジア太平洋地域のイノベーションハブにしようと市が本腰入れて取り組んでいる様子が伺えた。

午後からは拡張現実と仮想現実の技術やサービスを開発する企業のための研究開発スペース「AR/VRガレージ」を訪問。施設内には撮影スタジオや音響ブース、プレゼン用のデモブースなどの機能を備え、ゲーム開発、画像・映画製作などのスタートアップが入居している。AUGVIEW社では地下に埋もれた配管やケーブルなどの敷設状況を視覚化するアプリケーションを開発。穴を掘ることなくGPSで1cm単位まで測定可能で、工事の際に既設インフラにダメージを与えず、作業者の安全確保にもつながる。またStaples VR社は360度の映像捕獲システムとリアリズムの高いVR映像を組み合わせた映像制作が強みで、映画「ミッション・インポッシブル/フォールアウト」のヘリコプター飛行シーンは同社が手掛けた。このほかにも、ショッピングや食事などを疑似体験しながらその国の言葉を学ぶVR言語学習ソフト、AR+VRの複合現実感(MR)が得られるデバイスなど入居企業の開発製品の話を聞いた。

ARといえば少し前に流行ったポケモンGOが思い浮かぶが、今ではCGで創られた人工物に触れたりそれを動かしたり、質感や温度を感じたりする技術も開発されており、だんだん仮想と現実の境界がなくなってきている。商用化が進めば従来の仕事のやり方、日常生活までが大きく変わっていくのは間違いない。

AR/VR Garageにて。入居企業の事業説明

AR/VR Garageにて。入居企業の事業説明

夕方からは、経済界の2国間協議の場である「日NZ経済人会議」の歓迎レセプションに出席した。NZ側からはイアン・ケネディ委員長(元駐日大使)、オークランド市のフィル・ゴフ市長他が出席。開会スピーチでは両氏ともに当会訪問団の出席に触れ、歓迎の言葉を頂いた。日NZそれぞれビジネスパーソンとの交流を果たし、有意義な会となった。

ニュージーランド・タウランガ

11月20日は、オークランド市内のデボンポート歴史地区の視察組と、キウイフルーツで有名なゼスプリ・インターナショナル社のあるタウランガ視察組の2手に分かれた。以下はタウランガ視察の記録。

北島中部タウランガはベイ・オブ・プレンティ地方の中心都市。国内のキウイ栽培地の8割がこの近辺に集中している。始めにゼスプリ本社を訪問した。同社は輸出向けキウイを独占的に扱う企業。生産者約2,500名が株主で市場調査、研究開発、品質基準の管理などを行っている。栽培から消費者に届くまでの情報はトレーサビリティが確保され、市場調査の結果を生産者に伝えて商品作りに反映させている。利益は生産者に還元し、良い商品を作れば余計に報酬が得られる仕組みという。キウイの収穫期は3月末頃。日本では他の時期でもゼスプリキウイが食べられるが、これはキウイを冷蔵保管し出荷時期をずらして北半球の市場に投入しているため。同社では北半球での生産拠点を増やし年間を通じて供給できるシステムづくりを進めており、提携先を幅広く探している。

その後、選果業者のMPAC社を訪問。同社は国内に7社あるキウイ選果企業の一つで、生産者から持ち込まれたキウイをゼスプリの基準に沿って選果から出荷までを請け負っている。選果場では自動選別機が毎分300個のキウイをチェック。不良品の多くがここではねられる。最後に人の手によるチェックと箱詰めが行われ、クールルームで冷蔵保管。市場への投入時期を見て出荷される。同社では国内外での農園経営も手掛けており、日本では愛媛県と宮崎県に現地法人を設立してゼスプリ認可のキウイ作りを始めているとのことだった。

キウイ選果場での作業風景

キウイ選果場での作業風景

最後にキウイ果樹園を訪問して生産者に話を聞いた。キウイはデリケートな作物で種まきから収穫まで年間を通じて手間がかかり、特に11月は剪定作業で忙しいとのことだった。キウイの苗木はIoTにより温度や湿度が管理された専用のハウスで育てられ、散水や屋根の開閉などが自動的に行われていた。現地で特徴的だったのが防風林。キウイを守る城壁のように張り巡らされ、独特の美しい景観を構成していたが、今日ではコストが安く管理が容易な防風網に置き換えられつつある。

ちょうど食べ頃のキウイが日本の店頭に並ぶように逆算して生産から出荷まで厳しい基準で品質管理を行っている様子が今回の視察で見て取れた。また生産現場では最新技術による省力化が進んでいる一方でまだ人海戦術に頼らざるを得ない部分があり生産者の苦労も見えた。

タウランガでの視察を終え、オークランド空港でデボンポート視察組と合流。その後、次の視察地、南島クイーンズタウンに向かったのだが、悪天候で飛行機が着陸できず引き返す事態となった。オークランド空港に戻ってきたのは夜9時頃。市内のホテルの空きがなく、全員空港で一夜を過ごすという貴重な体験をした。これは当会始まって以来のことだろう。翌朝7時の振替便で再びクイーンズタウンへ。不安を余所にあっさり到着し、そこには昨夜の疲れが吹き飛ぶ絶景が待っていた。急な事態にも関わらず冷静に対応頂いた団員の皆様、そして迅速に動いてくれた西鉄旅行㈱のスタッフの皆様には心から感謝申し上げたい。

悪天候から一転、翌日天気に恵まれたクイーンズタウン

悪天候から一転、翌日天気に恵まれたクイーンズタウン

ニュージーランド・クイーンズタウン

クイーンズタウンはNZ南島、ワカティプ湖に面した風光明媚な街。世界遺産ミルフォードサウンドへの出発拠点として、また近年ではロードオブザリングをはじめ映画のヒット作のロケ地として知名度が上がっており外国人観光客の増加が著しく、それに伴い街の人口も急激に増加しているという。街を見下ろす展望台(標高800m)からの眺めが素晴らしい。SKYLINE社が市街地と展望台を結ぶリフトを運営しているほか、リュージュ・トラックやサイクリスト向けのバイクパークなどのアトラクションを整備している。リュージュは手軽に乗れて面白く、日本に持ってきても流行るのではと感じた。クイーンズタウンはバンジージャンプ発祥の地でもあり、様々なチャレンジが地域経済活性化に結びついている。

最終日の11月22日はオークランドに戻り、在オークランド日本国総領事館との意見交換会に出席した。菊池総領事からは現地の経済事情の他、2021年にはヨットのアメリカズカップ、APEC首脳会議がオークランドで開催されることや同国の環境先進国ぶり、電力供給の大部分を再生可能エネルギーで賄っている状況などの話を伺った。特に地熱発電技術は九州でも活用できると思われ、今後連携を期待したいとのことであった。このあとオークランド市内を視察し、当日夜に帰国の途についた。

今回経済ミッションではオーストラリア、ニュージーランドともに様々視察を行い、交流機会を多数設けて現地ビジネスパーソンに話を伺ったが総括して両国経済、まだまだ成長が続く勢いを感じた。