●福岡→バンコク→ホーチミン→明るい未来?

地方銀行である福岡銀行がホーチミンに駐在員事務所を設けることになった。その開所セレモニーへの出席を主な目的に、またこの機会に、成熟著しい東南アジアの経済状況・社会状況を調査するため、バンコクを経由し、東南アジアの様々な企業や経済団体などの話を聞き、また、実体験を通じて社会・経済の現状を体感した。今回はその訪問で強く感じた、未曾有のパワーと未来への希望をお伝えしたい。

●成熟したアジアの先進国際都市バンコクはいずこへ?

相変わらず暑い。福岡も暑いがこちらはさらにあらゆる意味であついのだ。僕が前回この地を訪れたのは、もう5年以上は前だったとは思うが、その時も想像以上に発展していた風景、特に新しくなった国際空港から夜の高速道路を眺めた景観が、ちょうど、映画「惑星ソラリス」で、当時世界の大国だったソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキーが日本の首都高速道路を、いかにも近未来的なイメージで捕らえたシーンとダブったものだ。今やいっぱしの先進国民となった僕の目にも、当時のタルコフスキーが東京に感じたがごとく、タイの高速の夜景は、未来都市のように映ったのだった。そして今回、僕が見たバンコクの姿は、もはや日本の一地方都市、福岡など遠く及ばないほどに、発展し、(行ったことはないけれど)まるでアジアのマンハッタン、セントラルパークとも思える場所となっていた。それはもう、夢のSF映画ではなく、あくまでも現実として、目の前にあった。具体的には、どんな国の食材でも多種多様な品ぞろえでしかも、美しくディスプレイされた、豪華なショッピングモールのフードコートや食品売り場の充実度であり、また、訪問した日系企業や経済団体の高層ビルの、最先端のセキュリティシステムや、洒落たオフィスからの眺め、豊かな緑にあふれた美しい公園の風景、そして道行く人々のダイバーシティ、世界中からこの地に訪れて来る様々な人々の姿だ。もうバンコクは僕らの想像を超えた、正真正銘の国際都市、メトロポリスになろうとしているように見えた。そう香港やシンガポールが、その地政学的な要因や、経済的、社会的に特異なポジションによって、突出した国際都市と変貌してきたように、次はアジアの中で、ある意味最も安定し成熟した状態にあるこのタイの大都市バンコクが、アジアビジネスの一大拠点として明らかに、浮かび上がってきている。

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高層ビルが建ち並び、大規模なショッピングモールでは、世界中の商品が何でも揃う。今やアジアの大都市となったバンコク。

 

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オフィスビルは、IDが無ければ、エレベータにも乗れない最先端のセキュリティシステム。ビルからの眺めはニューヨークさながら。巨大デパートには高級レストランだけで無く、日本の半額以下で満足できる格安のフードコートもある。(バンコク)

●日本のアジア展開の要

今や上海に次ぐ、日本人コミュニティーが出来上がったバンコク。実は経済成長率だけを見ると、かなり鈍化しており、極端な高齢化の進展など不安要素も多く、またご承知の通り政治的にも不安定なのだが、それにも関わらず未だに日本からの進出企業が増えているという。今回訪問したバンコク日本商工会議所の会員も増加中であるらしい。もちろんその最大要因の一つは、中国経済の減速と、日中の政治・社会的対立問題だ。逆に言うと、このタイ王国における、親日感情は本当に申し訳ないほどに良く、この目に見えない感情というものが、いかにビジネスを行う上でも役に立つか、重要な要素となるかということだ。もちろん、時間をかけて整備されていた、数々のインフラ、例えば高架鉄道やバス路線、国際空港、高速道路、電気・水道等に加え、今回訪問調査した日本人専用窓口のある設備の充実した病院や、日本人向けも含めた各種飲食店、食材から日用品までなんでもそろうショッピングセンター等、先進国でもなかなか敵わない程の日本人向け環境が整っている。特に商業施設や医療設備に関しては、日本の地方都市よりよほど優れていると感じた。それに加えて、おそらく企業として魅力的なのがコストの低さだ。今回訪問したオフィスビルの家賃を訪ねた所、驚くほど安い。また生活費についても、ある程度現地に溶け込むことで、食費や交通費などの生活費もかなりセーブ出来る。これは香港やシンガポール、そして近年の上海に比較しても桁違いの低コストとなるだろう。もちろん低賃金の非熟練労働者を多数必要とするような、繊維・服飾業等の工場については、その多くが、中国から、ミャンマーやバングラデシュなどに移っているわけだが、すでに賃金レベルがかなり上がっているこのエリアでは、一定以上の教育レベルを必要とするエンジニアやIT技術者、さらには会計士やコンサル、法律家や研究者など、より高度な産業分野にシフトしていくことが期待されている。もちろんタイ王国の実態としては、首都から離れると、まだまだほとんどが農業従事者であり、低所得層が多く、今後益々経済格差の問題が拡大していくことは避けられないだろう。バンコクにおいても、宿泊したホテルの周辺エリアには、オフィス街や富裕者層向け病院ではまず見ることの無いような方々が暮らすちょっとした、貧民街とまでは言わないが、彷徨くのが躊躇われる街区がかなり広がっていたのも事実である。

そう。少子高齢化、都市への一極集中、高度知識産業志向、そして経済格差。実はいつの間にか、これら先進国の問題は、グローバル化の進展とともに、一気にアジアの発展途上国の問題にもなってしまっているのだ。

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複数のカフェやレストラン、焼きたてパンのベーカリー、そして部屋に備えられたメニュー。これは全て病院の中だ。サミティベート病院は完全な企業体で、医師もこの会社に使用料を払う顧客。料金設定も医師毎に異なり完全な競争。最先端の設備を備え、日本人スタッフも数多く安心の体制だ。(バンコク)

●マイペンライ、バンコクなのか?

日本企業にとって、今やバンコクは最も重要なアジア拠点となっていることは、間違いない。香港が英国を中心とした欧米圏と中国に、シンガポールも欧米の進出が目覚ましい中で、タイ・バンコクはアセアン最大の日本進出拠点であり、タイにとっても日本は最大のパートナー国となった。今後さらに、両国の交流が進展していけば、成熟を極める自動車産業や電気業界だけでなく、現在進行中の各種インフラの整備や食品、農産品、そして今後は医療、薬品、研究などの高度知識産業の分野でも密接な関係が築かれていくことが大いに期待できる。アジアで最も密接に連携・交流を深め、成熟させていくべきエリアであろう。

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洗練された高層ビルから一歩裏通りに入っただけで、こんなエリアが広がる。くず鉄等のスクラップ屋、薄暗い激安な飲食店等がゴミゴミとひしめきあう。オフィスビルや病院で見かける人々と明らかに異なる層の住民が行き交っている。(バンコク)

●喧噪の暴走族国家ベトナムは天まで届くのか?

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バイクはここでは4人乗りまで大丈夫。ほとんどのエリアは、こんな感じで、今後2,30年でまだまだ大きく発展するだろう。そして4人乗りのバイクも徐々に自動車に入れ替わって行くのだろう。(ホーチミン)

ホーチミンも前回の訪問から10年近くたっただろうか。その時は、なんともまあ町中がゆるゆるのおっとり暴走族のバイクで溢れ、素人の道路横断なんて、ままならんような、とにかくそんな、鰯の群れ的バイク集団におののいた。そして今回、そのバイクの勢力が衰えた代わりに、多くの自動車が、しかもレクサスのような高級車までもが走るようになっていた。そしてなんと信号機なんかも増えて、まだまだ数少ないが素人でも轢かれる怖れなく渡れる横断歩道も発見。日本が停滞していた間も、世界は確実に変わっていたのだ!福銀のセレモニー会場は、ホテル日航ホーチミンの、最大の会場の様で、当初は大丈夫かと心配になったが、始まってみると、250人ものゲストで溢れかえった。九州・福岡のこの地域への注目度合いがうかがえる、熱気あふれる会となった。翌日、ホーチミン市民の誇りとなっている、ドバイの七つ星ホテルのミニ版のような、高層ビルから街を見下ろすと、現在工事中の、そして、これから開発される予定の広大なエリアが、サイゴン川向かいに開けており、ああ本当にこの町は、これから20年ほどで一気に変わっていくのだろうなあ、と言う実感を得た。自分が若ければ、こんなところでビジネスをすればあらゆる可能性がありそうだなあ。そんな無意味な想像が頭をよぎる。街を歩けば、まだまだ歩道も信号も少なく、おんぼろな食堂や商店が立ち並ぶ。一方で高級ブティックや瀟洒なカフェ、欧米資本のブランドが連なるエリアが次々に出現している。まだまだ貧しい市民も、どんどん上昇する収入への希望で、次々と目新しい商品を買い求め、結構高価だが、かなりまがい物の寿司にも喜んで大金を払う。まさに日本にもあった、高度成長期がいまここで展開されようとしている。すでにある意味で天国とそして今や煉獄を経験している、僕らだからこそ、この国で出来ること。ぼろ儲けだけはなく、我が国のそしてアジアの将来にとってプラスになることがまだまだたくさんある、そんな希望と可能性を感じた4日間だった。K.Y.

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街の誇りの高層ビルからは、回りに建設中の多くの高層ビルと、対岸で開拓中の大規模な開発エリアが望める。数年で一気に景観が変わっていくのだろう。街やビルを建設する前に護岸工事をした方が良いと思うが。(ホーチミン)