福岡はほんとうに国際化しているのか?

●福岡の成功?

クルーズ船による外客数日本一!国際会議数は東京に次ぐ第2位、華々しいランキングで勢いづく福岡。以前にも本誌拙稿「ランキングワールド~アジアナンバーワン都市になるということ~」(2011年1月号)「成長する企業、競争する都市」(2013年冬号)の中でも、複雑化する時代におけるランキングの重要性や、都市プロモーションの時代の到来等について散々書き散らしており、その文脈からすると福岡市はまさにランキングやプロモーションにおいては大きな成功を収めており、喜び称えるべきことなのだろう。どうやって出したのかはわからないが、人口当たりの飲食店の数が世界都市の中で4位などというランキングの出し方も都市プロモーション的にはとても面白い。

昔は都市の比較は、日本の政令都市間での比較であり、その目的も横並びを目指すためであったが、今世紀に入った頃から、大企業のグローバル化に伴い都市の意識も徐々に世界に向くようになり、やっと国境を超えた都市ランキングが市民権を得だしたと言えるだろう。

福岡市のランキングや様々な比較データが紹介されたFukuoka Facts(http://facts.city.fukuoka.lg.jp/)等を見ていると、福岡市も随分と国際化したものだなあと感慨深くなる。

 

●グローバル都市福岡?

そんな中で、都市の国際化に長くかかわってきた僕にとって、最近ちょっと印象的な出来事が二つあった。まず一つは、福岡に進出したある企業の方から聞いた話だ。その内容は「福岡には、英語を使う仕事がなくて、英語が出来る人材が余っている。一方、東京には英語を使う仕事があふれていて、英語が出来る人材が足りない。だから彼の会社は、東京の会社から仕事を獲得し、福岡のオフィスで福岡の人材を使って業務を行っていく」といったこと。安い賃料と人件費で賄えるため、人手不足の東京で仕事をするよりも効率的・効果的であるようだ。主にHP等の翻訳業務だそうであるが、ネットがあるからこそ成り立つビジネスだろう。そして彼らにとって極めて自明なことなのだが、なぜ福岡に英語の仕事が無いかと言えば、それは単純に外資系企業が全く無いからだと言う。もちろん、日本企業であっても、外国語の仕事はあるのだろうが、結局主要言語が外国語である会社と日本語だけを使っている会社では、その業務における外国語の活用頻度は全く違うのは当然であろう。

そしてもう一つは、当会のスタッフから得た情報だ。彼女は以前外資系の航空会社に勤めており、福岡にも勤務していたのだが、2000年代初頭には、福岡にも最高約30社の航空会社の事務所機能があったようで、そのほとんどが外資系だった。しかし日本の国力の相対的低下と歩を同じくするように、みるみるうちに撤退し、今や外資に限ればほぼ半減といった状態である。もちろんこれは、航空業界のトレンドや、グローバル企業の合理化の一環と捉えれば、それだけの事だが、国際化を推進しているつもりだったのに、気が付いたら実は国際化が遠のいていたようで、なんとも寂しいものだ。実際名実ともに国際都市である東京には、多くの外資系航空会社が集積しているわけであり、最もグローバル化している航空会社に関して見ると、今後日本の地方都市の出番が多くなるとは考えにくい。

 これらのことから福岡の国際化について「?」が浮かび上がってきた。ランキングやデータを鵜呑みにして、喜んでいて良いのか?

果たして、福岡はグローバル都市になれているのだろうか?

●データーで見る外資系企業の実態

それでは、本当に外資系企業は福岡に来ていないのだろうか。

都市の宣伝として、数値データやランキングを使う場合、抽出の仕方によって、いかようにでも良く見せることができる。つまり自分に都合の良いところだけを選び出したり、比較対象とする相手を恣意的に決めたり等、学術論文ではないので、客観性や普遍性等はそこまで問われないのだ。このような恣意的データは宣伝に使うのには役立つが、効果的で意味のある戦略を組み立てる際は注意を要する。

例えば、比較的信憑性が高いと思われる、九州経済産業局の九州アジア国際化レポート2015を眺めてみよう。「1-3-9 九州の外資系企業(支店・営業所等含む)の県別企業数(2014 年時点)」によれば、福岡県の外資系企業事業所数は303社を数える。九州の中では圧倒的な数だ。一方、経済産業省の「2016年3月30日 第49回 平成27年外資系企業動向調査(平成26年度実績)速報」によると別表1のとおりとなっている。この調査は、①外国投資家が株式又は持分の3分の1超を所有している、などいくつかの条件を設定し、対象企業を調査しており、回収率が約60%ではあるが、全国を同じ基準で調査しているため、都市間の比較には役立つデータだ。これによれば、福岡県の外資系企業は25社、東京都の2,284社と比べると比率にして、約1パーセントである。2番手は神奈川だが、こちらは東京圏として合算し考えても良いくらいだろう。大阪でさえ164社だ。企業数を見ただけでも、都心と福岡では圧倒的な差だ。

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しかし従業者数ではさらに驚くべき実態が明らかになる。社員数が1人でも100人でも1社と数えられるため本当の規模感は企業数ではわからない。そこで別表2従業者数を見ると、東京415,097人に対し福岡758人と、なんと0.18パーセントだ。つまり事業所規模的には1000分の1オーダーの比率でしか、福岡には外資系企業が無い。ほとんど無いと言っても良いくらいだ。

 

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●地方都市の国際化の内実

もちろん外資系企業の数が都市の国際化の唯一の指標ではない。留学生数や国際会議の数なども重要だろう。だが、最初に挙げたエピソードのとおり、実際問題としては、外資系企業の事業規模が、国際関連ビジネスの仕事量に直結することは間違いなく、それはつまり外国人や外国語が出来、国際ビジネスに携わるグローバル人材の数として現れる。本来的な意味の国際化とは、別にスターバックスやマクドナルド、サーティーワンアイスクリーム等の外資系店舗が増え、外国語表記が街にあふれるだけではなく、やはり主要業務の中で海外や外国人とのコミュニケーションが求められる事業所があり、そこで働く人々が増えていくことが必須なのだろう。

しかし、外資系企業の誘致に関して言えば、これまでのデータから見てもわかる通り、グローバル企業の集積や豊富な国際路線や都市機能等のインフラ充実といった様々な要因により、現時点では東京圏に対し、福岡に勝算があるとはとても思えない。やはりそこには冷静な分析による、確固とした戦略が求められる。

九州・福岡の可能性の一つは留学生だろう。もちろん東京に敵わないが、その開きはそれほど大きくない。平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果の地方別・都道府県別留学生数(独立行政法人日本学生支援機構(JASSO))によると、平成26年5月1日現在、東京都がトップで81,543人、次が大阪府の15,280人、そして福岡県は3位、13,666人となっている。人数だけを見れば先の外資系企業従業員数758人の約18倍だ。留学生の場合は、住民でもあるので年間延べ人数でいえば365倍の4,988,090人の日帰り外国人に値する。また、国際会議の数は、2009年から2014年まで6年連続で東京23区に次いで第2位だ。そのうち外国人の参加者数は、トップが東京23区58,769人で福岡は第4位9,307人となっている。さらに平成27年の福岡空港、博多港からの外国人入国者数は208万人となっており、平成24年から4年連続で過去最高である。中国からの入国は、今後中国人の中流層が増えるに従い増加することは確実であるため、観光客の存在はばかにならない。現時点では韓国人が最大だが、このまま中国人の旅行客が増え続ければ、間違いなく中・韓の順位は逆転するだろう。

なお福岡県の留学生の国籍内訳は、もちろん中国が第1位で6,147人、なぜか第2位はネパールで2,433人、第3位はベトナム2,350人だ。これも数だけで見ると不思議な気がするが、内実を見れば理解できる。例えば最も留学生の多い九州大学を見ると、1位中国1,051人、2位韓国238人、3位インドネシア108人であり、これは国力や人口から考えると納得のいく順位だ。ちなみにベトナムは48人でネパールに至っては6人であり留学生全体数の割合と比べると乖離している。ネパール人の最も多い大学でも日本経済大学の116人だ。つまりネパール人やベトナム人の留学生の多くは大学生ではないということ。時々報道もされるが、労働者として連れてこられ日本語学校に通う人々が留学生数に加えられているのだ。(留学生数は2015年8月福岡県新社会推進部国際交流局発行「福岡県の国際化の現状」より)

●来るべきグローバル社会に備えて

つまり、福岡・九州における国際化のキーワードは、1留学生、2中国人、3外国人観光客、4アジア、5余剰グローバル人材(またはグローバル人材流出)、あたりになるだろう。そうすると、自ずと現実的に目指すべき方向が定まってくるだろう。まずは留学生に対する手厚い施策。これは地元企業への就職紹介だけでなく、寮や保証人制度などといった生活保障、地元民や地元企業との積極的な交流の場の活性化、日本語教育の充実等まだまだ推進すべきことがある。次にやはり中国人との付き合い方を、本格的に考えていく必要がある。まずは小中高校などの教育現場での中国語・文化教育を本気でやっていくことが東京との差別化につながっていく。政治や国民感情的に難しい部分はあるが、この20年ほどの中国・日本の関係性の変遷を眺めれば、これから20年後のアジアにおいて、日本と中国の関係性や、中国の位置づけがどう変わっていくかは、自ずと分かるだろう。1995年からの20年で中国の名目GDPは約15倍に増加したが、日本はなんと減少している!2009年に追い越され今や半分以下だ。

 

この現実はいかんともしがたい。中国の統計は信じられない等といっても、東京・大阪規模の数百万~数千万の大都市が次々と地下鉄・高速道路、都市公園・文化施設などのインフラを整え、高層ビルが立ち並び、億単位で中間層が増加している実際の勢いのある中国を見ている人間からすると、些細な戯言に過ぎないと思える。中国バブルによる成長の減速は避けられないかもしれないが、すでに出来上がってしまった未曽有の巨大国家中国の14億人の人民と、彼らが作り上げた都市や資本が一夜にして夢の様に消えてしまうことは決してないのだ。

中国のさらなる拡大と国力の増大は、もはや避けられない変化であり、早く手を打てば、必ずや福岡・九州は東京とは全く異なる未来を構築することが期待できるだろう。また、最初のエピソードのとおり、福岡には外国語の出来る日本人高度人材や日本に就職したい留学生が余っていることもヒントになるかもしれない。

すでに人口減少の局面に入り、日本の企業は国内に留まっていては、縮小しいずれは消滅することとなる。このとき生き残れるのは、アジアや世界を材料の調達先としても、生産工場としてもまた市場としても捉えられる企業か、大きな付加価値を生み出せる企業のみだ。TPPのような国際的枠組みを活用できる会社だ。そんな企業に求められるのは、どんなところにも出ていき、誰とでもうまくやっていく異文化コミュニケーション力のある人材だ。

福岡・九州には中国人を中心とした優秀な留学生たちがいる。短時間ではあるが次々とやってくる観光客や国際会議の参加者がいる。このような、身近にいる異文化人材との交流・コミュニケーションを通じて、地場企業もグローバル化を推進していく。

一方で東京駐在の外資系企業の仕事でも良いから、国際的な業務であれば福岡で受けることのできる企業を誘致していく。これにより高度グローバル人材の雇用を促進する。

そして、中国やアジアを特に重視する施策や教育や考え方を普及させていくことで、東京との差別化を図る。これについては、福岡・九州はある部分で東京に先行している部分もあるのだから、あまり東京にばかり引きずられずに、独自路線も維持していくことが重要ではないだろうか。

日中グラフ最後

●福岡貿易会でもグローバル人材教育

このような地方都市にあっては、人材こそが唯一の資源である。地域において世界のために働けるグローバル人材を育成していくこと、また彼らが活躍できる場・企業を作っていくことが、困難ではあるが今後ますます重要な課題となる。福岡貿易会ではこれまでも、貿易実務やビジネス英語・中国語を始めグローバルビジネスの即戦力育成に尽力してきた。

そして今年9月から連続15回のシリーズでグローバル人材育成セミナーを開催することとした。ここでは経験豊富な海外ビジネス経験者を始め、福岡貿易会だからできる、一流の講師陣を揃え、これを受ければいやがうえにも、海外に飛び出したくなる!中国・アジアにも強くなる。そんな、即戦力になるグローバル人材を育成するセミナーだ。詳しくは 福岡貿易会 HP http://www.fukuoka-fta.or.jp/にて!